2009/06/06

破壊

 破壊の熱い原動力がたった一人の男から生み出される様子は、地下から噴出するマグマに似て、瞬く間に人々を飲み込んで行ったが、火山がそうであるように、そのエネルギーは急激に冷えて周辺部ではごつごつした岩石ばかりの荒野を生み出した。
 その時代が生み出した荒野は、それ以前の時代が生み出した文明の偉大な遺産をことごとく破壊した。人類の文明の最上の部分はこの時代に一度失われるに至ったのである。人類と他の動物を大きく隔てていたのは、過去の遺産の蓄積であったが、この意味では、人類は他の動物と変わらないレベルに戻ったといえる。
 ただ悪いことだけではなかった。知識と富の蓄積の偏在が生み出していた、閉塞感は消え去り、人々は細々とだが家庭的で幸福な生活を送っていた。見た目で言えば前世紀の都市は荒廃したとはいえ、各所にその痕跡を留めていたが、人口の多くは都市には価値を見いだせず周辺部に散らばった。この結果、集約的な国家は没落し、集落単位の権威が復活を遂げたのである。しかしその集落単位の権威でさえ、過去への復古を願った思想に根ざしたものではなく、単に破壊の上に成り立った新たな秩序として現れたものであった。
 富よりは暴力、集団よりは個人の力に根ざした権威が尊ばれ、その多くは世襲されず、より強力な個人の現出によって塗り替えられるという繰り返しによって、長い歴史的時間の経過とともに、人類はついに没落という言葉にふさわしい時代にまでたどり着いたのだ。

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